先週の土曜日、義父と映画を観に行った。
「劔岳 点の記」という邦画だ。
私は劔岳という山には、忘れることが出来ない思い出があるが、今回はそれには触れない。
映画を観て、自然の素晴らしさと厳しさをスクリーン一杯からひしひしと頂いてきたが、きっとそれはそれと同じような経験をこの身体が知っているからだと思う。
映画の中は猛吹雪だが、館内は丁度いいくらいの気温であり、本来3000m程の高所になると空気が薄く息苦しいのだが、もとろん映画館はそのようなことはない。
つまり、どれほど素晴らしい映画でも本物の自然を擬似的に体験することは不可能だ。
身が知っていて初めて本物になるのではないかと思っている。
義父は、仕事で北海道に勤務したことがあり、厳寒という経験があり、映画にそのまま身を投影していたようだ。
理屈は別として、近年数が少ないジャンルの映画であり、一見の価値がある作品だと思うことは否定しない。
多くの方に、この映画が語る訴えたいテーマを知っていただければいいなと願ってやまない。
私が最後に歩いた本格的な装備で出かけた山は「甲斐駒ヶ岳」だ。
日本で8番目の標高を誇る名山だが、劔岳と肩を並べる3000mに少し満たないが険しい山であることには違いない場所で、ここでの思い出話を少し述べたい。
前日に麓の小屋に投宿し、早朝3時頃より登山を開始する。
眠気から抜けない身体にゆっくりと刺激を与える位のスローで歩き始めると、丁度6時頃小さなこぶを超えたあたりの小屋にたどり着くので、そこで朝食となる。
山小屋で作ってもらった握り飯はあっという間に腹の中に収まってしまう。
ここから、溶岩が崩れたガレ場を歩き、草花が少なくなり、クマザサが現れる頃樹林限界地点に達する。
急な登坂を繰り返し、大きなこぶにたどり着くと目の前に、甲斐駒ヶ岳の山頂が見える。
必要な荷物だけになり、一旦下り切ってここから一気に登頂する。
日本第二の高峰「北岳」、「鳳凰三山」そして「富士」。
天候に恵まれ素晴らしい山岳風景をしっかりとこの目に焼き付ける。
さて、ここからが問題だった。
同伴の二名はここで既にあごが上がり始めている。
仕方がないので、二人の荷物を持って、先に先ほどのこぶまで戻り、お昼ご飯の用意をする。
ここから、バス亭まで二時間はかからない行程だが、二人の疲労を考慮するとぎりぎりかもしれない。
結局、私が二人のおおかたの荷物を背負って、無線機を抱えて先に下山することにした。
歩くのではなく、走る。
バスの出発時間の30分ほど前に到着し、二人を待つが、無線から得られる状況ではバスの出発時間には間に合わない。
バスの乗客に頭を下げ、待ってもらう了解をもらったが、全員が気にしなくていいからと言う言葉をもって暖かく待ってくれた。
30分遅れで二人が登場すると、登山客全員が暖かく拍手で迎えてくれた。
三人そろって「ごめんなさい!」と平身低頭だった。
後で分かったことだが、同伴者は靴擦れを起こしていた。
彼にとって初めての本格登山だったが、出かける相当前に計画を立てていたので、しっかりと足になじむくらいに履きなさいと忠告したにも関わらず、十分にトレーニングを積んでいなかったようだ。
登山で妥協が許されないものが、3つある。
一つは、ザック。
それから、バーナー。
そして、もっとも重要な登山靴だ。
厚手の一枚牛革を数枚重ね、靴の本体を作る。
そして、底にも同じように重ねた皮をベースに、本体としっかり縫い合わせる。
靴底は、ブロック状の模様を刻み込んだ硬質ゴム製だ。
そして、ベースの底とゴムとの間に分厚い木の板が挟まっている。
岩場などでとがった石の角や、木の根っこを確実に踏むには、足の裏全体でその衝撃を受けなければならない。
岩場を上る(あがる)とき、つま先1~2㎝ほどの出っ張りを捕らえて登攀しなければならない事は年中ある。
靴底のどこに体重を掛けても偏ることなく引っかかってくれる構造で初めて出来る芸当だ。
柔らかいトレッキングシューズでは難しい。
それくらいに硬く重い靴だから、なじまないとマメや靴擦れは確実に起こしてしまう。
・・・・・・・最近は、写真の撮影などが中心の山歩きだから、くるぶしまでの靴は逆にじゃまになるのでしばらく前はチロリアンシューズを履いていたが、現在は普通のスニーカーだが、その分山奥まで歩かない。
昔の500円札に描かれていた富士山の風景を撮影した「雁が腹摺山」あたりならばいいが、これよりも急な山は、スニーカーで歩く気には到底なれない。
・・・・・・ところで、履かなくなった登山靴は今、どこに行ってしまったのだろう。
見つけてもきっと皮が腐っているだろう・・・・

画像は、奥武蔵連山の一番西側に位置する「瑞垣山」でのもの。
一番気に入っている写真の一枚だ。
履いている靴は、足の形を取って作ったオーダーメイド(高田馬場にある「カモシカ」製だが、今もお店があるのだろうか・・)だ。
海外製市販品の2.5倍くらいの金額だったが、それ以上の価値がある。
歩くのが基本だから、靴だけは絶対に妥協してはいけない。
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